常滑の歯科・矯正歯科 久野歯科医院です
皆様に役に立つ矯正歯科治療の情報をわかりやすくお知らせします
インプラントアンカー(アンカースクリュー)について
当院にも多くの患者様が矯正歯科相談に来院していただけますが、診断の結果、骨格性の反対咬合や成人の開咬、お顔が左右で非対称な方、左右におおきく顎のずれのある方など時には手術が必要になる場合もあります
当院では外科手術を併用しなければならない骨格的に問題のある患者様の場合には矯正歯科の専門医の先生に紹介しています。
インプラントアンカーが必要な患者様の場合は手術が必要な患者様の場合が多くあります。
インプラントをアンカーにすることで今まで治療の難しかったものも治療できるようになりました。
しかしインプラントアンカーを設置することで今までむずかしかった大臼歯の後方への移動や大臼歯の圧下などで手術は回避できたとしても治療の難易度はかわりません。
またアンカースクリューを設置する場所では一般の歯医者で行なわれるデンタルインプラントと同じように神経や血管の分布している部位や血管神経の出入り口付近には注意が必要です。
アンカースクリューは目的を果たし、動的な矯正歯科治療が終了すれば取り去ってしまいます。
一般の歯医者が扱うデンタルインプラントのように20年以上使用に耐える役割りはありません。
デンタルインプラントのように歯に変わるものではないため小型で長さも短いものが使用されます
しかし治療中のアンカースクリューの脱落やアンカースクリューによる歯の根の損傷には注意が必要です。
一般の歯医者が扱うデンタルインプラントと同じように細菌感染にも注意が必要です
以上のような理由から当院はアンカースクリューを採用することはありませんでした。
しかしフルデジタルのカスタムリンガル矯正で効果的に不正咬合を治療するためには正中口蓋の部位に設置されるアンカースクリューは非常に有効です
口蓋の正中部第1大臼歯付近には走行に注意する血管・神経もなく、数少ないアンカースクリューの設置で十分な効果が発揮されます。
そこで今回口蓋正中部に設置するアンカースクリューの講習会に参加しました
出席者は私を含めて12名で若い女性歯科医が3名でした。
実習つきの講習会はマイオブレイスのBWSの講習会以来で1年6ヶ月ぶりでした。
正中口蓋部のアンカースクリューのセミナーに参加
題目:矯正用アンカレッジシステムi-stationベーシックセミナー
講師:斉宮康寛先生(東京の原宿でご開業)
午前の部
斉宮先生のオフィスの紹介
原宿にあるペンシルベニア大学教授のデザインされた未来的な斉宮先生のオフィスの動画による紹介から講習会は始まりました。
東京原宿の矯正歯科のオフィスはとてもすばらしく、ため息が出るほどで、当院の診療室とは全く異質なものであると強く感じました。
アンカレッジとは何か
物体がある力で引っ張られた場合、その反作用で必ず同じ力で引っ張る側にも加わります。
矯正歯科治療の目的で歯や顎の移動を行う場合も同じことでその移動に対する抵抗となる場所が存在しなければなりません。
それを固定源(アンカレッジ)といいます。インプラントはアンカレッジの役割を果たすものの1種で、その材料がアンカースクリューと呼ばれているものであると思います。
斉宮先生には矯正歯科治療においてアンカーとは何かを船と船を引き合う画像を例にして説明され、アンカーの意味、作用と反作用、相反固定のコントロールの難しさなどの解説の後、インプラント矯正の原理についてお話いただきました
初期の症例の紹介から問題提起へ
先生のインプラントアンカーの初期の症例を提示され説明をいただきました
外科処置を伴うミニプレートを使用して
過蓋咬合の症例
大きく上顎の歯茎の見えるガミーフェイス・ガミースマイルの症例
Class3反対咬合の症例など
を通してミニプレートは外科手術が必要であったこと
術後の痛みと腫れが発現すること
感染の危険性があることなど
の問題提起をしてくださいました
また歯槽部に設置するアンカースクリューについては脱落、取れやすい部位があること
歯根の損傷の可能性に注意を要することの問題提起が行なわれ、アンカースクリューの使用時の歯列弓の動きを図解で説明していただきました。
午後の部
i-stationの開発の経緯とコンセプト
i-stationは口蓋に正中部に2個のアンカースクリューを設置し、そこに付属品のプラットホーム、ワイヤー、プレイトなどをつけて3次元的に歯を移動させる装置です。
「マルチパターン」と呼ばれていて大臼歯の前方、後方への移動、拡大、挺出、圧下などすべての方向への力のコントロールが可能となります
アンカースクリューの設置部位の口蓋の正中部には大きな血管や神経の分布がなく、正中口蓋部がいかに安全な部位であるかを多くの研究論文を紹介しながら解説していただきました
外科手技
感染の予防の一環として、手術の前30分前に抗生剤と消炎鎮痛剤を飲んでもらうこと
アンカースクリューを設置する正中口蓋部の痛みのない局所麻酔の仕方について
デンタルインプラントの埋入に準じて回転数に注意すること、注水下で使用すること、注水は圧搾空気を併用しないことなどの術中の注意をお話していただきました。
アンカースクリューの埋入実習
模型を利用して2本のアンカースクリューを正中口蓋部に設置しi-stationを完成させる実習を行ないました
実物のアンカースクリューは思っているよりも小さく使用するドリルも細く、模型も工夫されていて、手指の感覚が伝わるようにできていました。
時間の経過が非常に早く感ぜられ、時間の経過を忘れてしまう内容の非常に充実したセミナーでした。
口蓋正中部のアンカースクリューについて
口蓋領域がアンカースクリューの植立に適している理由には
・術野の確保が容易で植立操作が比較的簡単である
・歯根から適当な距離をおいて、歯の移動を妨げない位置に植立が可能である
・重要な解剖学的構造物の損傷のリスクがひくい
・撤去後の歯肉の治癒が良好である
ことが日本矯正歯科学会のアンカースクリューのガイドラインに示されています
またガイドラインには多くのエビデンスが記載されております。
リンガル矯正(舌側矯正、裏側矯正)では正中口蓋部へのアンカースクリューが非常に有効です。抜歯スペースの閉鎖を考える時のメカニクスのパターンとしてアンカースクリューの使用は非常に有用なものになります。
リンガル矯正で前歯群を後方に移動する際の前歯の傾斜の問題もブラケット、トルクの事柄にくわえ口蓋正中部のアンカースクリューは有用です
アンカースクリューを使用するに当たっては、それに替わるほかの治療法を十分に考えたうえで、矯正歯科治療にどうしても必要であると思われる症例に使用されるべきだと考えています。